木工芸家に訊く 本当に必要とされるものを作る技術

2006.01.13  

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前田木藝工房 時を刻むベンチ

 毎回特別講師として家具製作に携わる職人を招いて現場の生の声を聞くという特別講義「家具製作実務」.2年生が対象のはずですが,もはや当たり前のように製図をフケて潜り込んできました.

 その第1回目のゲストは,松本で家具工房を運営する前田純一先生.東京で明治時代に創業した江戸指物職人の3代目.自身も指物師として修行を積み工芸展で賞を得るまでになったが,ふと自分が普段座っている椅子が安っぽい既製品であったことに疑問を持つ.「自分のために自分らしい椅子を創ろう.」それはきっと人間国宝になることよりも大事なことではないかと,長野の自然の中に生活の場を移し,次代を担う若者を養成しつつ,今日も日用品の生産に励む.

 木工芸家の作品と聞くと,どうしても生活感覚から隔絶したごてごてしい代物を想像してしまいがちなので,最初に先生の椅子を拝見したとき,そのスッキリと無駄のないデザインに小気味良く裏切られた気がしました.
 その一番の特徴は,指物の高い技術を持ちながらもそれにこだわらず,金属という異素材を積極的に利用し,木だけではできない造形,簡略化を実現していること.もう一つはペーパーを使わずに,鉋後を積極的に残し,平坦な中にも人間らしいテクスチャーを残していること.共に,金属加工技術,平滑と人間味の絶妙なバランスを保つ木工技術の高さをうかがい知ることができます.

 工芸品は職人の技術が極めて高く,手を尽くした最高の一品であることに高い評価が集まるものの,当然のように値段が跳ね上がり,一部の人しか手に入れられなかったり,使うのに惜しまれたりしてますます生活から遠ざかってしまいます.
 けど,普通の人が普通に求めるちゃんとした道具を作るのにも,高い技術は当たり前のように必要なんじゃないのか.どれだけ普遍的で長年使えるデザインをしたとしても,それをキチンとかたちにする技術は必須なんじゃないのか.工芸界で高く評価される技術があるからこそ,何気ない日用品を作るときにも,シンプルな中に確かな存在感が,説得力がうまれるのではないでしょうか.

 モノは既に溢れている.モノではなくコトをデザインしなければならない.箱を作るにはまず中身を描きなさい.家を造るにはまず人を描きなさい.工芸品は機能がある.結果として用をなす必要の無くなった工芸品もあるが,用の成さないモノは工芸品ではない.まず何のためにそれが要るのか,なぜ自分がそれを作らなければいけないのか,それが明確でなければいけない.
前田木藝工房 旅行のためのデスク

 僕は「自分で作れるデザイナー」になりたいと思っています.プロダクトデザイナーにも工芸家にも少し違和感があります.でもどちらにも興味があります.この先「作る」に比重を置いたとするならば,その道の最高の技術を持った工芸家に師事するのは,考える余地無く当然の選択なのかもしれないと,今回の話を聞く中でひとつの確信を得ることができました.

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はじめまして。「モノからコト」久しぶりに聞いたいい言葉です。商品ではなく、それを使う人の心を考える。一見簡単そうですが、いつのまにか忘れがちなことですね。
いいブログですね。また楽しみにさせて頂きます。よろしくです。TBさせて頂きます。

こんばんははじめまして.
お返事遅れてすいません(汗
一流の人の考え方,苦労話は,どんな分野の人でもものすごく含蓄があって勉強になります.そのエッセンスだけでもお伝えできればと思ってますが.

TB歓迎します.
またお暇がありましたら時々読んでやってください.

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