風土論の先へ 日本の地理や自然から結ばれるデザインとは

2008.01.14  

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松岡正剛 『花鳥風月の科学』 花鳥風月の科学
松岡正剛

 日本という国は、いつから存在するんだろう。

 北海道を併合した現代の国土と法制がほぼ確定したのは明治以後の140年。あるいは現在の都市の勢力図を描き終えたのは江戸以後のおよそ400年。いや、対外的に日本列島に「クニ」の存在が認められるようになったとき、大和朝廷が誕生した1500年くらい前からだろうか。
 その間に、日本の姿はどのくらい変わったんだろう。もちろん、特に近現代の、産業の発展や国際化に伴う変化の著しさには言うに及ばず、それが無くとも、何度となく都が遷り、幾多の戦乱や栄枯盛衰の中で、計り知れない破壊と創造が繰り返されてきた。最古を誇る建築や、樹齢千年を超える御神木は、ヒトとモノの生と死をもっとも多く見つめてきた、哀しみで染められた孤独な存在なのかもしれないとも思う。

 けど、人の世がどれだけ移り変わろうとも、そこには変わらないものが確実にあるのだと、旅をしていると特に強く思う。
 石油や核力という莫大なエネルギーを手に入れた人類にとって、ひと山を越えるのに、もはや何の労力も要らない。半時間も電車に揺られているだけでいい。けど、その路線ももちろん最短距離の直線で出発地と目的地を結んでいるわけはなく、山の麓や川に沿うように走る。トンネルにはギリギリまで入らない。それはコストを抑えるための当然の方法論だが、そうして「地の利を活かす」ことは今も昔も変わらないことに気付く。多くの鉄道や国道は旧街道に沿っている。そこは果たして、いつから「道」だったんだろうか。
 そんな視点で街に目を移すと、ここ大阪は手前を海に、奥を山に囲まれ、海沿いに山を越えると奈良に、北方面に山を越えると京都に行き着き、それらもまた四方を山に囲まれた中に街並みが広がっている。まるでRPGのマップを見下ろしているかのように、険しい山と、それにギリギリまで寄り添っている街並みの境界線がくっきり見えるようで面白い。
 そもそも、日本最古の都市の栄えた奈良は「山門」を意味してヤマトであり、その背後の山を越えた先にある京都は「山背」と当ててヤマシロと呼んだ。また、京都の夏の風物詩「五山の送り火」も、山に囲まれたこちらだけが生きるヒトの世界であり、山の向こうはもはやヒトの住む世界ではないという世界観の表れだと思う。多くのヒトは里に住み、山を越えずに生涯を過ごしていた。「裏山」を所有する珍しい小学校で育ち、帰りも近道として里山の獣道を通って帰っていた程度しか山と関わってきていない現代人としても、そうした距離感には強く共感する。

 変わらないものは確かにある。およそ1万年前の最終氷期を終えて以来、日本の地理的条件は変わらない。同じような四季のなか、同じ風を感じ、同じ山の似た植生を見ながら、同じ鳥の声を聞く。そして、今も変わらず太陽の恵みを受け、月の光を浴びながら、同じ一人の人間としてこの世界を生きている。
 そんな固有の気候風土こそが、世界に類を見ない、日本独自の世界観を築いてきた最大の要因であり、また、だからこそ現代を生きる自分にも、同じようにその世界観を五感を通じて感じ学び取ることは可能なんだという思いは、ここへ来てから各地を巡った経験と結びついて確信に変わりつつある。そしてそれは、ここ同じ日本に住む全てのひとの感性の奥深くと共鳴する言語となるのではないかと思う。


奈良公園 春日大社 回廊
初詣に訪れた春日大社の回廊

新年初更新じゃないんですが、遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
本年もますます時間の無くなる中、気が向いたときに、ゆるりと駄文を綴っていきたいと思っていますので、気の長いお付き合いを願います。

そういえば、うちと提携している張り工場さんの若専務がブログに嵌っていて、今度トラックバックしときますねーとの社交辞令が発したまま宙に浮いていたので、新年の挨拶として年賀トラックバックしちゃいます。

僕はその内容の保証はしませんから。
良いんですね? 知りませんよ!知りませんからね!!

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