最先端?家具工場で見つけた 産業革命後も残る手作り

2007.09.09  

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ソファ製作工程 ウレタン接着
ふつうのソファ製作工程 ウレタン接着

 背も座も全部木や金属でできているものを除き、ふつう椅子やソファというのは、フレームがあって、それにさまざまな弾力性のあるクッション材を載せて、ファブリックで張りぐるんで作ります。で、高価なソファではスプリングや羽毛を使ったり(こだわりのある人は馬毛や椰子の実繊維を使ったり)もしますが、ふつうは木で組んだフレームに堅めのチップウレタン、柔らかいソフトウレタンを組み合わせて椅子のカタチを作っていきます。

 面倒だ! そもそも発泡ウレタンは元は液体でどんなカタチにでも成型できるんだから、始めから椅子のカタチした型に入れて、一発でイス型のウレタンを作ってしまえ!という発想から誕生したのが、ウレタンモールド成型技術、それによってできた素材を「モールドウレタン」と呼んでいます。

DURO / SOGO
LOW-RES / SOGO / Designed by Dodo Arslan
初代バーチャファイターのような、巨大ポリゴンの世界から着想を得てデザインされたソファ。
従来の製法では、強度を保つため木枠に十分な厚みが必要な上、
ソフトウレタンの角がファブリックのテンションで潰れてしまうため、
このような細くてエッジの効いたカタチはモールドウレタンの最大のアドバンテージ。
 
ISTINYE / SOGO
ISTINYE / SOGO
モールドウレタンの心材は基本的に鉄製なので、木枠のフレームでは実現不可能な細さが得られる。
ただ、スチールフレームであることと、高密度なウレタンが隙間なく充填されていることから、
木枠フレームよりも重量が大きくなってしまうのが最大のデメリット。
 
PANETUNE / Sergio Brioschi / alfrex
QUADRA / PANETUNE / alfrex
モールドウレタンは通常のスラブウレタンよりも高密度でヘタリに強く、
同社ではむしろ成形の自由度よりもその品質から採用しているように感じる。
本来、その用途から固さが違ってしかるべきの背と座が、
モールド一発成形で均質になってしまうデメリットを回避するため、
座面やシートクッションにはソフトウレタンやフェザークッションを載せている。

 型を作れば、後は全部同じカタチで一発成型、と聞くと、そらもう巨大な工場でコンベアに載せられた型がぐるぐる回って全自動で大量生産!みたいなイメージを抱くかもしれません。僕も最初はそう思っていました。だから手間のかかる木枠よりも人件費を削って安く大量に作れるのが最大のメリットではないのかと。それを「モールドウレタンとは?」みたいな紹介文を書いたときにそのまんま載せて、先輩からため息交じりに注意されました。
 「残念ながら、それは違う...」と。

モールド製造工程   モールド製造工程
①原液を注入します。注入量は一定量に制御されてるけど、数値は職人の勘と経験によってで決められています。   ②ムクムクと膨らんでくるのが見えるので、いっぱいになるタイミングを見計らってキャップを閉めます。その間約1分。
   
モールド製造工程   モールド製造工程
③冬場はヒーターのはいる小部屋に約20分安置してウレタンを安定させたら型から外します。   ④バリをオルファのカッターナイフで丁寧にカット。ファブリック引き込み穴もカットします。

 全然流れてません。最初から最後まで手作業です。確かに伝統工芸みたいに職人の熟練の技術みたいなのが高度に要求される訳ではないかもしれないけど、こういう作業を全自動化するのは現実的に不可能で、だから例え非効率に見えても手作業に頼らざるを得ません。
 そんな訳で、今はやたらと「手作り」がもてはやされたりしてますが、言葉の上では実はほとんどの工業製品が今もチマチマと「手作り」されているというのが実状です。中国製品が安いのは人件費が安いから、ということはつまり彼らはほとんど人海戦術でものづくりしている証。コンベアの流れ作業でも各ポジションで取り付けするのは人の手だったりするし、スイッチ1つ入れれば全部機械がやってくれる工程ですらその機械にデータを入力したり監視したりする技術者はいる訳だし、それぞれの工程でそれぞれに熟練した技術で効率よく製造することが求められるのも同じこと。そんな風に、どこか名の知れぬ工場でもくもくと手作りしている工業製品と、「温もり」というコピーと共に流通する「手作り製品」との違いって何なのかなーと考えさせられます。

 ものをつくることは人間にしかできません。ものづくりの現場には必ず人がいます。気むずかしい人、明るく楽しい人、もくもくとまじめな人、みんなで楽しい仕事をしようといつも前を見てる人。そんないろんな人と関わっていくことが、ものづくりの仕事です。そんなものづくりの現場の楽しさも、製品と一緒にこれからも伝えていきたいなと思っています。


世界生活文化センター

 すぐそばで生活していた学生の時と、何ヶ月も離れて現場で揉まれた今とは何か見えるものが違うだろうと、飛騨高山の家具イベント「暮らしと家具の祭典」に足を運んできましたが、ほとんど級友との語らいに終始して家具を見てくるの忘れました。ダメじゃん。
 僕にとっては生まれ故郷よりも「故郷」に近い街。また近いうちに帰るから、元気で再開しような。

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初めてメールをお送りします。モールドウレタンと、成型ウレタンとは、名前は違うが、同じ物なのでしょうか。よろしくお願いします。

こちらこそはじめまして。いらっしゃいまし(^^

語義上では一緒だと思うんですけどね。
モールドウレタンと言ったときの方が範囲が狭いかもしれません。
心材の無い軟質ウレタンや、発泡しない成形樹脂はたぶんモールドウレタンとは呼びません。

外来語は概してその技術と共に入ってくるので、
意味が限定的になることが多いんだと思います。

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