薄暗がりの中に美を求める 古来からの美意識を端的に捉えた名著

2005.06.14  

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谷崎潤一郎『陰翳礼讃』(1933年)

 先の日曜日,花いっぱい運動の一環として苗の仕分け出荷と学校周辺への植え付けのお手伝いを朝から夕方前くらいまでしてきました.汗ばむ初夏の休みの日.心地良い労働の後にサッとシャワーで汗を流して,窓を全開にして夕飯の支度.涼しくなる頃に友達のうちでのカレーパーティに出かける準備.あ,これって何か,夏の夕涼み,夏祭りに行くときの感覚と一緒だ.そんなことを感じた,とてもすがすがしい一日でした.

 古来,日本の家屋は,初夏の激しい風雨に耐えるために必然的に大きく伸びた屋根と庇によって,奥まで日差しが届きにくかったため,日本人は昼でも薄暗がりの中で生活することを強いられました.しかしだからこそ,薄暗がりの中で映える美を発見し,それを一層引き立たせるために陰翳を利用するようになったと言います.漆黒のうちに仄かに煌めく蒔絵.その中に揺らめく澄んだ吸い物.明るいところではケバケバに見えてしまう金銀の糸を織り込んだ着物.それが沈んだときに,浮かび上がる女性の顔や手はどこまでも透き通る白として映える.
 闇は本能的な恐怖を呼び起こすから,多くの文化ではそれを必死になって駆逐しようとしてきました.しかし日本人はその闇の怖れにこそ神秘を見出し,底知れぬ空間を生み出すことに成功しました.夜の暗がりをあるがままに受け入れたからこそ,極められた美があったと言うことです.

 夜の闇も夏の暑さも,それを受動的に流す術に日本人は長けていたはずです.人の住む環境を快適にする一方での,それ以外の環境の変化にようやく気付いた今だからこそ,そういった日本古来の文化を再考する時期なんだと思います.
 「日本人の美意識の真髄,ここにあり」みたいに,現代デザインの教科書のように評される昭和初期の作品.なのでとても小難しい内容なのかと敬遠していましたが,開いてみたら時々クスッとしてしまうくらい読みやすくて面白い話でした(同じく深澤直人氏ご推薦の九鬼周造『「いき」の構造』は未だにサッパリ読めません).未読の人はぜひご一読を.

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