小さくても矛盾なく調和が取れていることを大切にするデザイン

2008.12.29  

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I'm home. 2009/01 鼎談 杉本貴志×原研哉×深澤直人 I'm home. 2009/01
特集「和の空気Ⅱ」
鼎談 杉本貴志×原研哉×深澤直人

 最近の自分のスタイルを表現するキーワードに出会った。というより、その言葉は見つけていたけど、そんなありきたりな言葉じゃなくて、もっとキーワードらしい、今風のカッコいい言葉がないものかなーと探していたけど、深澤直人があまりに見事に自分の思っていたことをそのまま言葉にしてくれていたので、あ、なんだ、やっぱりこれで良かったんだと思った。
 以下、ちょっと長いけど引用します。

 近年、一つのトレンドとして、古いアパートなんかを自ら改装して自分の店やカフェを作る若者がいる。新しいものを一切買わず、自分でつくってしまう文化。(...)大きな家に住みたいとは思わないし、高級な車に乗りたいとも思わない。(...)小さくても矛盾なく調和が取れていることが大切に思われてきた。
 こだわらずに自然にバランスを取るのが大事ですね。こだわる部分をもちつつ、達成できない事実を認めて諦めることが美しい。これまでは、何か突出していればそのほかが至らなくても認められた。五、六角形の折れ線グラフにたとえると、最近は全体が小さくてもバランスの良い五、六角形であることが価値になってきた。

 学生の頃に思い切り背伸びして買った、アントワープ系デザイナーのジャケットが最近になってようやく着方がわかってきた、とか、なじむようになってきたと思う。
 それは当時に着こなすセンスがなかった、というよりも、その1着に「見合う」服を他にもっていなかったことが大きい。1着だけ妙に浮いてしまってしっくりこない。それはその後もいろんなデザイナーのいろんなブランドの服をいろいろ買うたびに起こってきた「破綻」だったけど、最近になってその支離滅裂なワードローブが結びついていくつかのスタイルをつくるようになってきた。ちょうど、降り始めの雨が車の窓ガラスにランダムに付着しているだけだったのが、次第に結合し、大きな水滴になっていくように。
 ここへきてようやく、調和のとれたスタイルがいくつか完成されてきた気がするし、五、六角形の折れ線グラフでいうところの大きく凹んでいるところを均すために足りないアイテムを探すこともできるようになってきた。


 ただ、間違っちゃいけないのは、調和をとるというのは、決してすべて無難なもので揃えていくことではないということ。
 例えばある池を思い浮かべる。風もなく、対岸の景色が綺麗に映り込んでいる。何か新しいものを買うとか、新しいことに挑戦するのは、その池に石を投げ込むようなものかもしれない。ポチョンポチョンと小さい石を投げていれば、波紋も小さく、すぐに治まる。ドボーンと大きい石を投げ込めば、水面は大きく乱れてなかなか治まらない。けど、いつかは治まるから、それを怖れる必要はない。
 怖れるべきなのは、小さい石をいくら投げたとしても、いつまで経っても水かさも変わらなければ底に敷き詰めることもできない、見た目に何も変化はないし、積み重なっていくものもないこと。むしろ池の大きさに比べてあまりに大きすぎる岩を投入したとき、池のカタチすら一気に変えてしまうかもしれないが、その岩にすらやがて苔が生し、生き物が棲み、池の風景になっていく。

 人間が、大人が、成長するっていうのはそういうことだと思う。そういうことでしか、人は成長できないのではないか、とも思う。


今年もお世話になります 僕よりも少し年上のアラジンストーブ
今年もお世話になります 僕よりも少し年上のアラジンストーブ

 大きな家に住みたいとは思わないし、高級な車に乗りたいとも思わない。けど、自分の手の届く範囲のものは、手の届く限り質の高いものを、生活を豊かにしてくれるものを選び、大切に使っていきたい。
 一過性の消費に終わらないそれは、自分の生活に、心に、確実に「資産」として蓄積されていく。「調和」とは、そんな蓄積された目に見えない「資産」の中に形成されていくものではないか、と今は漠然と思っています。

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