2005.08.20  

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『海の上のピアニスト』(1998年イタリア)

※壮大にネタバレを含みます.未見の方は自己責任で.

 船上で生涯を過ごした天才ピアニスト.その暖かく小さな世界に育った彼にとって,外の世界は,今のささやかな幸せを犠牲にする価値が全く見出せない程に無意味に広大すぎだったということなんでしょうか?

 世界は「鍵盤が無限個あるピアノ」のように,その可能性は果てしなく無限大に見えます.が,人生の選択肢は実際歩んでみると思いの外少ないことがわかります.それでも,あたかも「88個の鍵盤から無限の音楽を生み出す演奏者」のように,人それぞれに無限の生き方があるのが,つまり人生というものです.そして,アコーディオンのおじさんのように,人生の選択肢に縛られ前進できなくなってしまった人には,その無限の可能性こそが,新しい人生のスタートラインに立つ希望になります.

 船上で「生涯を過ごした」彼の人生は船の最期と共に幕を閉じたとしても,その後に陸に上がってゼロからの新しい人生をスタートさせることもできたはずです.その理由も,生涯の友として慕うマックスが彼を必要としていることだけで十分です.先が全く見えなくても,あるいはその先は不幸や失敗や絶望だらけだったとしても,生きて「世界を観る」ことにはあらゆる代償を払う価値があるのではないでしょうか.

 結局「海の声」を聞くことの無かった彼の考えていることは「幼い」ことが勿体ないと思わせる大きな原因だけど,彼は決して自分の人生が不幸だったと思っていた訳でも,外での普通の暮らしを切実に夢見ていた訳でもないので,彼の選んだ物語の終幕(彼の伝説に幾ばくかの華は添えられた)には,彼の人生を捧げるに見合う価値があったのかもしれません.

いい物語があって それを語る人がいるかぎり 人生 捨てたもんじゃない

 人生の新しい価値観を教えてくれた一言.条件1も条件2も,手に入れるのも保持するのもとても大変で,確かに人生の必要十分条件です.序盤から大泣きでした.うおーん.


Music for Yohji Yamamoto Collection 1995 まん丸いお月様を見上げながら,映画の余韻を味わうために引っ張り出してきた1枚.

 思えば,世界でほんの数人しか到達できない超天才的領域の演奏が,街角のCDショップで数千円で買えちゃうこの時代.高度情報化社会の現代においては,必要とされる天才はごくわずか.そしてそんな天才の演奏を聴き慣れているから,いざ本当にすごい演奏を目の当たりにしても「まぁありきたりだね」くらいの感動しか湧かない.そんな評価しか与えられなかった準天才さんは,自分の(しばしばちょっと方向性の違った)価値を理解してくれるもっとローカルなコミュニティに安住の地を見出していきます.
 こう言うと,もっと身近なところにいる準天才に目を向けようよ!と結論づけたいところだけど,僕はやっぱり情報化社会に乗っかった要領の良い天才さんになりたいと思います.

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COMMENTS

確か、1900年に生まれたから"Nineteen Hundred"って呼ばれてた男の話でしたよね。K-ENさんの感想を読んで、やっぱり男と女の感想は違うものなんだなーと、思ってしまいました。(人によっても違うとは思いますが。。) K-ENさんはロマンティストなのねん。。(・・;)

どちらかというと現実的だと自認しておりましたが,
確かに言われてみるとロマンティシズム全開かもしれません.

して,roseaさんの「女性の現実的な感想」とは?w

今思ったんですが,仮に船を下りてその後...みたいな終わり方をしたとすれば,
それはまるっきり「タイタニック」と同じになっちゃいますね.
アナザーストーリーを楽しみたい方は両方観ましょう,みたいな.

台風やってきます。思わず英語のレッスン休みにしちゃいました。(*_*)
いつもながら、妙なコメントにレスをいただき、ありがとうございます。

さてさて、Nineteen Hundredのお話っすね。。

やっぱり、えええっ?って思ったのは最後のところです。
私としては、本当にNineteen Hundredって言う人がいて欲しかったんですよ。話としては、すっごくロマンのある話じゃないですか。でも、ああいった終わり方にしてしまったら現実離れしたおとぎ話だったっていうのがバレバレで、なんだか映画全体がうそに思えて。。(まぁ、映画はウソの塊だっていうのはわかってはいますが。。) ので、話の終わりは観る人にお任せ的な終わり方のほうが私はよかったです。

これ以上書くともっともっと辛口になってしまうので、この辺で…。m(__)m

こんにちわ.
台風って,一体いつの話でしょうか?
高山は平和です.(w

>現実離れしたおとぎ話だったっていうのがバレバレ

あっそうか.僕は最初っから最期までおとぎ話のつもりで観てたから,
リアリティ云々なんていう考え方をしたことありませんでした.
あれが実話だったとしたら...どうなんでしょう.ちょっと考えが及びません(汗

#予告観たときは伝記映画と思ってた節もありますが,見始めてすぐに
何となく違うように感じたんですよ.トルナトーレ監督だし.
http://www.k-en.net/archives/2005/06/03.html
その辺の嗅覚はSecondhand Lionsを先に観てた影響かも.

それが実話か御伽話かに関係なく,何か自分の人生の糧になれば,
十分に価値ある映画だと常々考えています.

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