女性 と 女性的 であることの違い 見る夢もまた

2009.08.27  

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やなぎみわ 婆々娘々!

 老いること、自分の未来を考えること、被写体が自信の未来に託した想い、ジェンダー、虚構を写すリアルな写真、撮影技術や特殊メイク、そもそもなんでこんな作品が作品として成立してるんかなーとか。思うことはいっぱいあったけど、結局何が一番大きな収穫だったかと言えば、「キレイな写真だなぁ」と思えたことかもしれない。

 「写真って、こんなにキレイなんだ」っていう素朴な感動。
 普通のフィルムでこんな鮮明な絵は撮れない。大判のフィルムに焼き付けられた、大きく引き延ばされたパネル写真。そこから得られる感動は、決して手のひらサイズの図版から得るものとは次元が違う。だから、あまり知らなかったやなぎみわの写真を、最初に美術館でちゃんと見れて良かった。

やなぎみわ 婆々娘々!

 誤解を恐れずにカミングアウトすると、僕は一時期、「女性」になろうと試みたことがある。
 といっても決して、男が好きなわけでもなければ、女装趣味があるわけでもなくて、それは純粋にジェンダーの問題。社会的役割としての男性、女性。物心ついたころから、男と女は社会的に平等だ!と教えられ、男らしさも女らしさも求められなくなった社会で、まるで職業を選択する自由のように、どっちでもいいなら「女性的役割」のほうが自分に合ってるかなと考え、実践していた。

 そんなことをしてると、自然と自分の周りは女の子ばかりになってくるんだけど、ピーク時にはホントに1人の「女の子友達」のように女の子のグループに所属してたりもしたけど、結局どこまで行ったとしても、自分は「異物」であることを拭えなかった。僕が居ると話題や話し方がなんとなく違うし、逆に違わないとその「かしましさ(女子トークとも言われるアレだw)」にこちらがついていけない。グループの外から人が加わると、まず一歩引かれる。それは、意識的、無意識的なものを問わず、そこにいるのが「男」であれば、自然な反応だと思う。

 結局僕は「女性」にはなれない。女性として生きるのは不自然なことなんだ。
 だって、僕は「男」だから。

 そう、 男が、例え純粋に社会的役割としてでも、女性として、女性的役割として生きるのは、やっぱりどこか破綻していると思う。それが性格的に向いていることだったとしても、そういうことに向いている時点で既に十分突然変異だ。
 皮肉なことに、女性社会にどっぷり浸って、自分がどれだけ「異質」かを思い知らされることで、自分の中の「男性」を認識し、受け入れることができた。そして、どれだけ男らしくなくても男らしく生きる方が、無理のない自然な生き方だってことに気がついた。

 話が長くなったけど、やなぎみわの写真を観ながら思い出していたのは、そんなことだった。

 やなぎみわの作品も、ぶっちゃけて平たく言えば、「私たちは何ものなのか」、「私たちはどこへ行くのか」という有史以来の哲学的問題に対する一つの解答だ。けど、その決定的なユニークさを、僕個人の視点で問い直すとすれば、「彼女たちは何ものなのか」、「彼女たちはどこに行くのか」となる。

 ファンタジックな夢を見るという特権を与えられた少女は、やなぎみわ自身の言葉で「見られる存在」とされる女性になって、男性社会とはコインの裏と表のように似て非なる女性社会という異世界を生き、そう遠くない未来にきっとステキなおばあちゃんになっている。
 そんな彼女たちの夢は、どこまでいってもファンタジックでステキな夢ばかりだった。僕は男らしくない男として、そのステキな夢に負けないくらいステキな夢を、これからも、そしていつまでも、見続けたいと思う。

インタビュー やなぎみわ (ARTiT)
 ベネチアビエンナーレ日本館で個展を行ったやなぎみわの制作コンセプト。宮崎アニメを「あれはただ宮崎氏の好みの女性だ」という語り口が、まっすぐで芯が通ってて心地良い。

 現物は図版より美しい。
 それって美術の世界では当たり前だと思われてるけど、デザインの世界で、それが実現できてるプロダクトがどれだけあるか、と思い馳せると少し哀しくなる。現物を見て感動できなければ、写真を見て感動してもしゃーないよ、ということが、世代が新しくなればなるほどわからなくなってきてるんじゃないかと危惧することは、単に歳食った証かな。
 面白いのは、やなぎみわの作品は「写真」で、その図版はいわば「写真の写真」で、「写真の写真」は「写真」に劣るけど、その「写真」はきっと、「被写体」そのものよりも美しいんだろうな。
 けど、それが単に撮影技術で、現実の美しさを最大限に引き出した(とか現実の醜い部分を隠した)からではなく、被写体の内面というファンタジーを美しい現実として写しとったからだというところが、単なるフォトグラファーではなくアーティストたるゆえんなのかなと、つまんないことを思ったりもした。

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