見慣れたカタチをちょっと崩すだけの最先端テクノロジー

2008.05.12  

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Speed Metal / Paul Loebach
Speed Metal

 一見して、見慣れた様式の燭台がちょっとだけクネクネしただけの、何の変哲もない普通の燭台。けど、ホントにそれだけか? なんか見れば見るほどおもしろい。これを発見しただけで今日一日ずっとハッピーな気分で過ごせました。

 考えても見てください。
 そもそもこの輪っかの連なったような装飾は、スピンドルといって木の棒を回転させたところに刃物を当てて削ってできる、量産可能な技術が先行してできたデザインなんですよ。
 それ以前のルイ何とか様式みたいな装飾では量産できず一部特権階級だけのものであり、庶民は無装飾の無骨なものしか使えなかった。そんなものを横目に憧れながら、庶民にも豊かな装飾性を楽しむ権利をあたえてくれたのがスピンドルで、だからウィンザーチェアに代表されるそれは庶民の間に瞬く間に広がり、普遍的な「様式」として定着したわけです。
 それがぐにゃりと曲がってる。もうこの時点でスピンドル装飾の根源となった技術的要件が完璧に破綻するわけですよ。こんなのはもう量産できない。従来の技術では。

Shelf Space / Paul Loebach
Shelf Space

 けど現代には「三次元NC」という最終兵器があります。
 もはやクイーンなんとか様式であっても意も介さず、プログラムすればボタン一つでポンポン作れる時代です。
 そんな中世の人の王族御用達の職人も庶民もが夢見た現代のマシーンを前にして、時代を繰り返すように中世の様式を再生させようとするのではなく、あえて、そのちょっと先の時代から、複雑な三次元彫刻を諦めた時代の様式から新しい造形のヒントを得ているのが面白い。

 以前に僕も三次元NCで加工された木製品を見せてもらったことがあるけど、中世を思わせる階段の手すりの、直線部分ではなく折り返し部分が複雑怪奇に一発で自動切削されたそれを見て、すごいなーとは思いつつも、それ以上の使い方を思いつけなかったから余計にこれが痛快に感じます。
 ちなみに、最初にお見せしたSpeed Metalはブロンズ製の鋳造なので三次元NCで量産してるわけではないと思いますが、3Dモデルを立体化するラピッドプロトタイピングという技術が応用されているそうです。

Chair-O Space / Paul Loebach
Chair-O Space

 見慣れた、むしろ見飽きた古典的装飾が、単にぐにゃりと曲がっただけで、その技術要求レベルを一気に現代まで引き上げて、さらにその歴史さえも根本から骨抜きにしてしまっているのが、この現代だからこそ誕生しえた三次元シュールレアリスムオブジェ。


Sketch

 クネクネしているのが単にアイデアだけで終わらずに、きちんと「美しい」カタチにまとまっているのも、ドイツ修行で培われた、古典的ディテールの熱心な観察と探求の裏付けであることもお忘れ無く。

 デザイナーはPaul Loebach。アメリカ合衆国オハイオ州出身。ロードアイランドデザイン学校卒業後、ドイツで木工を学び、現在ニューヨークにてデザイン活動中。日本ではまだほとんど知られていないみたいです。

 が、日本で見られる日は、そう遠くないと思う。

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