スペインより届いた『Smile Chair』に見た木製椅子デザインのココロ

2007.12.04  

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Smile Chair

 見た瞬間に目が釘付けになった。

 一目惚れする椅子に出会えることなんてそう滅多にあるもんじゃない。僕も駆け出しながらプロとして今までにいろんな椅子を見てきた。それは結局は人のお尻と背中を支える機能を持った道具であって、今まで誰も適用したこと無い新しい素材を使ったり、拡大解釈した新しい形態の可能性を探ったりしたものでない限り、どれも似たり寄ったりになってしまうのは当然のことだと思う。特に有史以来使い込んできた「木」を素材にした椅子のデザインはもはや出尽くした感がある。

Smile Chair

 その出尽くしたはずの木製椅子に、それも一切奇をてらわない極めてオーソドックスでシンプルな構成の椅子に、まだこんな美しい可能性があったのか?! というのがまず驚きだった。どこかで見たことあるようなカタチをしているのに、そのディテールの1つ1つが完璧なバランスでまとめられ、目を見張るオリジナリティを醸し出している。
 そう、実はこの「どこかで見たことあるような」というところが重要なポイントだと思う。スポークだからウィンザーチェアだろうか。いや全体的なカタチのバランスはウェグナーを彷彿とさせる。いやむしろその原型となったチャイニーズチェアのディテールを盛り込んだのか。しかしその研ぎ澄まされたラインはウィンザーともウェグナーとも一線を画し、イタリアモダンの正統な血筋をしっかりと感じさせる。

Smile Chair

 デザインは結局「美しいカタチをつくる」ことに他ならない。重厚壮大なコンセプトがあっても、それが読み取れない造形に価値はない。コンセプトはカタチで語ることが必要十分条件であるはずだ。つまり、美しいカタチのともなわないコンセプトは頭でっかちのゴタクでしかないのと同時に、言葉を失わせる、思考を飛び越え感性へダイレクトに訴える美しいカタチが存在するからこそアートやデザインの道を追求する意味があるんだと思う。
 それでも、僕はやはり美しいカタチに出会ったときに「それが何で美しいんだろう」と考えてしまう。そして今のところそれは、「歴史や伝統による裏付け」以上に踏み込んだ解答は見つけられずにいる。


 スチール製の家具は、バウハウス以降のたかだか60年くらいしか歴史がない。プラスチック他の素材は言うに及ばず。それに比べて木製の家具は、世界中の至る地域で制作され、それこそ人類史と同じくらい歴史があり(かのイエスキリストも元は木工家具職人だ)、それらが「様式(style)」としてまとめられ、時代や地域固有の文化を象徴する。
 だから、木製家具には「血統」があると思う。いや「だからこそ血統が必要だ」というべきか。エンジニアリングウッドの技術開発で(例えばプライウッドなどの)新しい造形の可能性も開拓されてきたが、それでも「木」という素材が本来もつ特性はそれほど大きく変わらない。それにはスチールほどの強度もなければプラスチックほど自由な形にはできない。だとすれば、きっと木という素材を、壊れない、使い勝手の良いものへ正直に作り込んでいったら、それは必ず過去に完成されたいずれかの「様式」に近づいていくはずだ。





arper Catifa53
arper Catifa53
by Lievore Altherr Molina



 木製家具はその「様式」を大切にしなければいけない。否が応でも近づく「様式」に意識的にならなければいけない。意識せずに中途半端に何かに似てしまったそのデザインは、幼稚園児が描いた「花」の絵の、「チューリップの絵」としての価値以上のものは生み出し得ないのではないか。意識して「様式」に限りなく近づき、そしてその末にそれを超えて生み出されたものにこそ、創造の価値があるのではないだろうか。

 模倣は極めて創造的な行為であり、全ての創造の源である。だが、真に偉大なる創造は、膨大な模倣の末についに誰も到達し得なかった新しいものを生み出すことにある。

 ミラノを中心に活動するデザインユニット Lievore Altherr Molina(リボーレ、アルテール、モリナ)による、Andreu World の「Smile Chair」という椅子。この椅子の美しさの裏に僕が感じたのは、そんな「偉大なる創造」への小さいけれど確かな可能性なんだと思う。

SMILE CHAIR ( CONRAN SHOP )
 買えるところを発見しました。結構良いお値段ですけど・・・。

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