2007.06.16  

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ベネッセハウステラス
青空とエノキとベネッセハウステラス

 例えば昔にドラゴンクエストなんかをプレイしているときに、ファミコンの本体をうっかり蹴っとばして画面の端が少し乱れてしまったのを、本来は目の前のマスしか見ることを許されていないはずの画面の中心にいる主人公が偶然目撃してしまったとしたら、彼は一体なにを思うだろうか。
 いや、そもそもこの現実に僕の生きている世界も、単純な物理法則に支配された完璧なシステムではなくて、映画「マトリックス」のような、普段はそれと見分けがつかないくらい完璧に稼働している極めて複雑なシステムの上に成り立っていて、だからたまたまこの島が局所的にバグっていたとしても何もおかしいことはないのかもしれない。
 たまたま世界のバグを目撃してしまった彼は、けれど宿命に抗うことなくモンスターを斬り捨て続け、行く末に魔王を倒しその役目を終えたとしても、彼の中に生き続けたその「気づき」のために、きっと隣のセーブデータの彼とは違った人生を味わっていたはず。
 「世界を知る」とは、そういうことなんじゃないか。そんなことまで考えさせてくれたのは、岡山県沖合、正確には香川県の、瀬戸内海に浮かぶ小さな島「直島」。

本村バス停前の家
本村バス停前の家
ほとんどの家が本物の「焼きスギ」外壁で、高山のベンガラ外壁とはまた違った情緒がある
のれんがかわいい

香川郡直島町 まるで島全体が巨大な現代美術館。現代アートのテーマパークかもしれない。乗船券という入場料を払って降り立てば、隣の駅に行く感覚で歩けばすぐに海という自然の壁で囲まれた、スーパーも田んぼもほとんど見かけないくらい「生活の現実感」のない、東京ディズニーリゾートも顔負けのテーマパーク。

 美術館以外に際立ってみるべきものがある訳じゃない。けど、何もないことがまず一番に美しい。雨の予報は何だったのか思うくらいピーカンに晴れたその日は、空の青と、入道雲の白と、島の緑と、海岸の白と、透明感のある海のエメラルドブルー。そして、暖かな日差しと、潮の香りと、雨上がりの森の香りを乗せた、この季節ならではのひんやりとした心地良い風。そんな風景を高台のミュージアムカフェから一日中眺める。これ以上贅沢な時間の使い方が他にあるんだろうか。

ベネッセハウス ミュージアム
ベネッセハウスミュージアム ホール
安藤建築の真骨頂、コンクリートの回廊。F.L.ライトへのオマージュか

 安藤忠雄の建築は、神殿だと思う。神様の住む神殿に向かうとき、回廊をくぐりその御神体と対峙するとき、そこで神の偉大さを肌で感じさせるのは、空間の力以外の何ものでもない。それが美術館でも、対象が美術品だったとしても、その役割は何ら変わらない。島に渡り、林道を抜け、庭園と、コンクリートの回廊を通り、暗くひんやりとしたホールに入り、靴を脱いで石畳を踏みしめながら、奥に開かれた自然光で照らされた広大な空間で対峙するモネの「睡蓮」。ここへ来て、モネの仕事の偉大さを初めて知ったような気がする。こうして、ここに展示されている美術品は、図版どころか、他のどの美術館でも体験できない出会いとなった。

夜の海の駅
海の駅(妹島和世設計)
島へ着くと一番最初に踏み入れる場所
近くで見ると特に驚くのが、そのあり得ない柱の細さ
その晩の突然の嵐にもビクともしなかったけど。

 大阪から3時間くらいで来ることのできるリゾート地。ベネッセハウスなんてエグゼクティブなところに泊まらなければ1万円くらいで一泊かけてのんびりできる。空気もうまいし自然もキレイ、ご飯もうまいし人の和やかで言うことのないリゾート地。だけど、いつかはベネッセハウスにBMWで横付けできるくらいの、人としての器を携えて訪れてみたい場所だと思いました。人生の、1つの目標として、ね。

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