世界は単純なものに違いない 有吉玉青 |
エッセイはインスピレーションだと思う.
気の合う友達と何気ない会話を楽しむように,あーそうだよねー,わかるわーなんて頷きながら読む.その人が求めているもの,その人が最近感じていること,そのアンテナにピピッとひっかかる何かが,それに一番近いかたちをした文章としてストレートに表現されているから面白い.
この本も,図書館の新着コーナーに置いてあって,数ページめくっただけで,結局最後まで「読まざるを得なくなって」しまった.僕はあまりエッセイを読まない.いや,本自体それほど読む方じゃないんだけど,作家なんだからその主張や思想は小説というフォーマットの上に表現されるべきであ(り読者はそこから時に誤解しながら感じるものを拾い集めるべきであ)って,エッセイのフォーマットのないストレートな言葉というなんとも安直な響きに,つまらないプライドが反抗する.
けど,そのとき心が求めているものに出会ったら,つまんないも,プライドもないんだなと思った.図書館の閲覧コーナーで本気で泣きそうになったので,早々に貸し出し手続きして退散することになるなんて.
確かに,ライフステージという言葉があるように,人は年代によってやるべきとされていること,どういう生き方をしているべきかがおよそモデル化されている.けど,それはあくまでモデルであって,現実の自分の人生とはまったく結びつかない.
と,思っていた.
1980年に生まれた僕たちに与えられた世界は,高度成長期を通り過ぎ,成長期にはバブルの真っ盛り,物質的にはすっかり豊かになっていた.伝統や格式,さらに地域や家族からも自由になって,夢さえ持てば何でもできる,その言葉が先に現実になった.
何もしなくても何でも手に入ったから,結局何もできなくなった.何でもできるはずだから,何にもできない現実から逃げてきた.温室で育てられたから,吹き荒れる吹雪に耐えられず,また温室に戻ってきた.いつまでも子供のままでいるつもりだった.
けど,現実には,時間の流れは止まっていない.何もしてなくても,何もできないつもりでも,問題の方から次々襲いかかってきた.勉強のこと,仕事のこと,将来のこと,親のこと,友人のこと,恋人のこと.そんな問題は以前にもあったかもしれないけど,以前は手に負えないからと逃げてこれた.でも,こうした問題に対し,26歳という数字はもはや逃げることを許さない.そういった人生の応用問題みたいなものに立ち向かう覚悟を決めたというか,逃げることを諦めざるを得なくなったのは,「そういう年代だから」と答えるのが一番しっくりくると思う.
僕が大人になりきれなかったのは,こうなりたいという大人に出会わなかったから,(それがあまりに他力本願な言い方だとすれば)あるいは,こうなりたいという大人像を思い描けなかったからだと思う.
じゃあ今はそれを思い描けるのかというと,よくわからない.けど,大人になるということに,今ようやく肯定的になれたような気はする.今は解決できないいろいろな問題を解決できるようになるなら,失うものもさしたる損失じゃないように思えるようになった.
そんな当たり前のことを,26にもなって悠長に自慢して語れるというだけで,今は自由で豊かな良い時代なんだなーと思ったりもして.
わからない.でもわからないと思ったとき,わかったのだ.意味などない.宇宙では何でも起きる.せいぜいそういうことで,ということは我々の存在も,意味なんてなかったのではないか?
最初からあきらめていたのではなく,求めた末に「ない」と気づけば,これは高次元の認識だろう.深いことを考えず,楽しくしあわせに生きていければいいと思う.
そして少なくともわれら地球人にとっての究極的な問いとは,「どうしたらしあわせになれるか」に尽きるのではあるまいか.(P.153 『宇宙に意味なんかない』より)
インスピレーションであるエッセイは,町のお医者さんが処方してくれる医療用医薬品みたいなもので,自分に効用があったとしても,そのまま人に効くとは限らない.この駄文もおそらく,この本の用法を間違えた結果のような気もする(読んでみたら期待した内容と違う!とか言われそう).でも,心の琴線に触れる文章がたった1行でもあれば,そこから何か自分の人生を豊かにするヒントを得られれば,その本はその人にとって価値ある本になるんじゃないかと思います.
そういう文章に,いい本に,人に,これからも出会えることを願って.
本文とは関係ない余談.
先月の25日に東京ビッグサイトのIFFTに見学に行ってきたんだけど,そこでPROSPECTのブースに展示されていたアート作品に惹き付けれ,家具そっちのけで見入ってしまったので,作家さんとかメモしておきます.
何が魅力かって,自分にも買えそうな値段だったりもして.買っちゃおうかな.
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