2005.10.12  

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 以前,飛騨の里のデザイナーズプレゼンテーションをお手伝いしたときにお会いしたデザイナー日原佐知夫さんのベンチ「Obi」.その彼の歴代作品と「Obi」の製作記やコンセプトをまとめたポートフォリオビデオを今更ながら拝見させていただきました.

 スタイロフォームを短冊状に切り込み,ちょっとずつ角度を付けて貼り付けていくと,このようにねじれたかたちが出来上がる.するとそのねじれ部分にもたれかかったり抱きかかえたりする新しい姿勢が生まれるし,両側に座って向かい合い上端に手を沿わすとそれらは頂上で出会う.陰と陽をも表現したその椅子は,個人の差を強調しつつも融合を目指す「愛と平和のベンチ」なのです.

 ひょっとするとこれを見て,コンセプトを聞いたとき,「単に面白い造形を目指しただけで,コンセプトは後から無理矢理付け加えたんじゃないか」という疑念が払いきれない人がいるかもしれません.が,実はそれは疑念でも何でもなく,それこそがこの作品が物語るデザイナーのスキルそのものではないでしょうか.

 一般に,デザイナーの職能,スキルとは何なのか.面白い,美しいカタチを考える能力なのか.求められる機能をカタチに変換する能力なのか.
 単に美しいカタチを作り出すだけならばそれはアーティストのスキルであってデザイナーのスキルではありません.それが実用品のデザインである限り,そこには何らかの機能が伴っているはずです.と言うことは,デザイナーの一番のスキルとは,カタチと機能の関係性,それぞれを結びつける方法論,即ちデザインボキャブラリーの豊かさにあり,それはその翻訳の方向にはよらないと言うことができます.
 だから,美しいカタチから確かに一般人には気付きにくい(しかし言われれば納得の)いろいろな機能を読み取ることや,そういう多様性を許容する,可能性を秘めていそうなカタチを無意識的に描くことができるのは,まさに優れたデザイナーのスキルなんだと思います.

 以前にデザインプロセス研究を紹介した際に,デザインはひとつのアイデアをいろいろな視点から検証して云々という考え方をしていましたが,どうも視点毎に多数のアイデアを独自に打ち立て,最終的にひとつの目標に向かわせた方が,良いデザインが生まれる可能性が高いような気がしてきました.
 機能一辺倒では真の美しさには永遠に到達できないのかもしれない.デザインする人の右脳に美しさのイデアが存在しない限り.美しさのみを追求するプロセスを,新しいデザインツールとして道具箱に加えてみようと思います.

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