2005.06.17  

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広告批評 2005/06 Vol.293

Maruni Wooden Small Chair/ artemide Hashi-Long

 シンプルでキレイ,よくできてるということが伝わるだけでいい....キレイだね,普通だねと言うのは,完璧に出来ているからそう評される.

 例えば,散らかっていたり汚れている部屋に入るとそれがすごく目に付くのに対し,きれいな部屋に入ると何も感じない,気に留まらない.深澤直人のプロダクトデザインの真髄は,つまりそこにあるみたいです.

 彼の生み出す「シンプルでキレイ」な造形は,一見すると誰にでも簡単にできそうです.たいそうなコンセプトが読みとれる訳でもなく,誰もが思い浮かべる「そのもの」のかたち(原型,典型)をしています.
 そう,アイデアの発端は至極簡単なものなんです.ものの「典型」を追求したい.そのものの本来のかたちとして,極限まで美しい形態を与えたいと.だけど,誰もがさほどの感動を覚えないキレイに整った部屋にするのに,例えばあなたの部屋(そして僕の部屋)をそんな状態にするのに,どれだけの時間と労力(と智恵と根気)が必要でしょうか.彼は本当にそこを徹底的に作り込んでいくからこそ,これほどまでに洗練された「シンプルでキレイ」なプロダクトがデザインできるのです.

 アルヴァアアルトは自身のモデュロール(建築設計の基準寸法)を1mmだと言っていましたが,深澤直人はマルニの椅子を修正単位0.8mmで作り込んでいったそうです.キレイに見える部屋も,イヤな臭いがちょっと残ってたりすればすぐに付け焼き刃なのがばれてしまいます.シンプルでキレイな造形を目指すならば,そんなわずかな線のブレを徹底的に修正し洗練していく課程を怠ってはダメだと言うことです.たとえそれが,プロダクトを見ただけでは誰一人として気付いてくれなかったとしても.

※全ての人が美しいと感じるかたちは無く,それは単に特定の状況において多くの人が合意しているものに過ぎない.彼は前者を原型(アイコン),後者を典型(アーキタイプ)と呼びます.原型や典型は新しく創るものではなく,既に人々の思考の中に存在し,それを探すのが彼のデザインプロセス.そしてそれを見つけることを,彼は「はまる」と表現します.

 人を喜ばせたり,幸せにするのは造形以外の何かだという確信を持ちました .時代もそういう方向に動いているんじゃないかと,何となく思った.

 もちろんそれは造形を,「ディテールを完璧に作り込む技術」をマスターした後の話であることを忘れてはいけませんが,それでも頭の片隅に常に置いておきたい信念です.

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