よけいなお世話かもしれないけど,とその人は切り出した.
「本は読んだ方が良い.そうやって手に取ったということは,何か興味を引くものがあったはずだ.その小さな興味の芽を摘み取ってはいけない.」
下北沢の静かな路地裏の,古道具屋が何件か並んだその一番端にある,本屋とも雑貨屋ともつかない小さな店で,本屋というにはあまりにも数が少なく,しかし目を見張らんばかりの珠玉ぞろいの蔵書を,僕は一冊ずつ丁寧に睨みつけていたところだった.
静かに店に入り,本を手に取り,表紙や目次,本文に少しだけ目を通し,そのまま棚に戻し,静かに店を後にする.そんな人をその人はいままでに沢山見てきたはずだ.だからそのそぶりの微妙な差異で,本に魅了されているか否か,何か心に引っかかるものを持っているか否かくらいはわかるのかもしれない.
「今の人は沢山情報が入ってくるから,自分が何に興味があるのかはよく知っている.けど実際にそれを体験し,経験として自分の中に焼き付けないから,感覚が鈍り,リアルを感じられなくなっている.レストランの前を通り,おいしそうと思うことができるのに,それを実際に味わおうとしない.興味を持ったことを自分の身体で経験すること,それこそが自分を確立し自信を形成する唯一の方法だ.何かと理由を付けて先送りにしてるとすれば,その時点でもう好奇心は鈍ってしまってるんだ.」
そんなこと言われなくてもわかっている,常々心がけている...つもりだった.でも,改めて思い返してみると,先送りにする理由のほとんどが,経済的なものであれ時間的なものであれ,本当は,がんばれば,いくらでも克服可能だと言うことに気付く.知らないうちに,こんなにも多くの足枷を,自分の心が作りだしていたんだと.
おじさん,ありがとう.今日,ここに来れて本当に良かった.
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