2004.11.05  

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本多孝好『FINE DAYS』

 あまりにも似すぎているから,兄たちと正反対に,親父に反抗し続けた青年.だからこそ,父が癌で余命幾ばくもなくなったとき,母と結婚する前に,与えられた仕事を全うするために捨てざるを得なかった恋人の行方の捜索を頼めるのは彼だけだった.
 経営者として家族もろくに顧みずに駆け足の人生を送った父親.そんな彼も若い頃は画家になるという夢を追いかけていたことを初めて知る.何が夢を諦めさせ経営者の道を歩ませたのか.事情もわからず,納得がいかないまま捜索を始める彼.そして,彼が,父親らが昔住んでいたアパートを訪ねたときに,そこで出会った人とは...

 村上春樹のような静かで穏やかな語り口で,徐々に,でも確信的に絶妙なタイミングで明らかになるミステリー.電車で読んでたのに鳥肌が止まりませんでした.
 二十歳前後の夢見る若者と,かつては夢見る若者で事情によりそれを諦めて違う人生を全力で走りそして終焉を迎えようとする男の人生観の違い.何も知らないガキだからこそ,何も知らないガキだった頃の父親の思い出を背負うことができる.
 総体としてみた人類の経験とは,人はそれぞれに平均80年の時間が与えられてて,それぞれがほとんど同じように生まれ同じように成長するのに,僕が僕の人生で手にしたあらゆる経験や知識は,別の誰かは結局同じ経験や学習をしなければ手に入らないと言う「無限の繰り返し」ばかりという紛れもない事実.たとえ不思議な体験によって不思議な交流があったとしても,彼の経験は彼のものでしかなく,そして彼には父親が手に入れ損なった経験を手にするチャンスもあるということ.

 そんなちょっと切なく,ちょっと暖かい「イエスタデイズ」を含む4編の不思議な日常を描いた短編集.心地良い読後感です.

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