2004.07.11  

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『ノーマンズランド』(2001年ボスニア)

自衛隊派遣を問い直す

 1993年ボスニア戦争のさなか.ボスニアとセルビアの中間地帯にボスニア人とセルビア人の兵士が取り残される.そこでときどき心を通わすのに,ときどき殺すか殺されるかの一触即発の衝突を繰り返す,煮え切らない二人のヒューマンドラマを通して,戦争の愚かさ,虚しさを問う.ボスニア出身の監督による作品.
 もちろん戦争は愚かなことだという感想を持ち,平和を願って終わることもできる.だが,どうも今回はそれとは違う思いで頭の中がいっぱいになった.

 ユーゴスラビア紛争.ボスニア戦争.10年前の事だからと,過去のことだと,今まで無知でいたことが恥ずかしい.中学生の頃からニュースでさんざん流れていた情報.でも名前程度しか記憶にない.今はイラクとアメリカの戦争が取り沙汰されているが,それを理解するためのヒントが過去の紛争に沢山あることに改めて気付かされたことが,今回ユーゴスラビア紛争について調べたことによる,一番大きな発見だったかも知れない.

 戦争反対.それは大前提.そんなもの,無きゃ無いに越したことはない.武力行使は憎しみを生み,新たな武力行使という負の無限ループを発生させる.そして結局被害を被るのは無力な一般市民.だから日本は武力行使を伴う外交手段を一切放棄し,挙げ句に人道支援と銘打った自衛隊の海外派遣をも「武力行使」の一環として様々なバッシングを受けている.

 けど,この映画で描かれている国連軍UNPROFORの活動.これって,武力行使だろうか? 戦闘を助長し,都市を破壊し,むやみに死者や難民を増加させ,一方的に世界を荒廃へと導くだけの,許されざるべき暴力としての武力行使だろうか?
 「力のない正義は無力」と言う言葉がある.もちろん力無しに紛争や国際問題が解決できるならばそれに越したことはない.が,ケンカをしているのを横から止めるように,またはケンカっ早い大将を引きずり降ろすように,紛争の根元を根絶したり,その目的をいち早く実現したり,もしくは紛争を起こさないように横から睨みを効かせたりするのにも,「力」は必要なものじゃないだろうか?
 自衛隊の持つ「力」も,そういう使い方をして欲しい.救援物資を自らの手で届ける.負傷した兵士を救出する.地雷,その他兵器を解体,無効化する.破壊された街やライフラインを復旧する.荒廃した街の治安を取り戻す... 直接的に「武力行使」に至らない範囲でもできることはもっとあるはずだ.

 こういう国際情勢,国際社会を牽引する国連やNATOでの議論を追っていくと,日本が国際社会から置き去りにされている理由が浮き彫りになってくる.というより「そんなの当たり前」とさえ思えてくる.
 ボスニア紛争に介入した国連軍とNATO軍.当然国連にもNATOにも加盟しているのドイツも派兵に参加している(映画にもドイツ兵が登場する).当時のドイツ大統領シュレーダーは,過去の過ちを認めつつも,「ボスニアでの紛争を止めるため」という目的を明確に掲げ,派兵と武力行使に参加した.
 武力行使を表明することが絶対必要という訳ではないが(ドイツはイラク戦争には反対),その選択肢を初めから去勢されてしまっている日本の外交が,一主権国家として国際社会に通用しないことは想像に難くない.支援物資を自らの手で届けることのできない国が,一体どんな国際貢献ができるというのか.アメリカに与えられた日本だけの局所的な平和にボケてリスクを負わない日本の外交に,どんな説得力があるというのか.

 もちろん「正義無き力は暴力」である.「力」が本当に正しい方法,目的で行使されたかは厳しく議論,批判する必要はあるだろう.慎重に議論しなければならないのは言うまでもなく,だからサミットで国会審議無しに多国籍軍参加を表明した小泉はバッシングされて当然だ.でも,そうではなく,何も考えず自動的に「力」を否定するのには,やはり疑問を感じずにはいられない.

 戦争は最悪だ.でもテロリズムはもっと最悪だ.私利私欲のためだけの独裁政権も最悪だ.そんなもの,根絶やしにできたらそれに越したことはない.というわけで,戦争以外に取るべきより良い手段があったなら,それとなくブッシュさんに教えてあげてください.

※ちなみに,こういう攻勢外交を支持すると言うことは,ある日突然ミサイルが飛んできて人生を終える覚悟をある程度はしなきゃいけないと言うことです.今の日本は平和ボケしすぎているので,そのくらいの危機意識くらい持っても損はないんじゃないでしょうか? 日本は平和だけど,世界はまだまだ全然平和じゃありません.世界平和について考えましょう.

ユーゴスラビア問題(次世代情報都市みらい) 大戦後からの動向
ボスニア戦争の背景(Fifteen Four) 19世紀からの歴史,民族問題の背景
旧ユーゴ紛争と国連(鹿児島大学 平和問題ゼミ) 国連軍UNPROFORの活動など

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