序章 (1)

 2060年に発生してから世界中で猛威をふるった殺人ウィルスの脅威から逃れるため,2069年にアメリカ領バージン諸島にあるバイオスフィア施設は外界とのコンタクトを完全に遮断した.が,施設内で5回目の感謝祭を迎えた年,外界で人類が滅亡の危機にあるのに施設内で平和に生活していることに憤りを感じたマイヤーによって,施設機能は完全に破壊されてしまった.やがて施設内で発症するウィルスによって,施設内の人間は全滅することになる.エンノイアとハナの二人を残して.

 エンノイアの父クリスは,ユーサムリッド所属の軍医.同バイオスフィア施設で民間と協力してウィルスを研究するために派遣された.が,実はそのころ頭角を現し始めた「原父」組織に情報を流していたスパイだった.原父はアメリカを失墜させるために,ウィルスはアメリカが流したという情報が欲しかったのだ.そして,その事実を証明するデータを親友レインの協力で入手した.だが,このデータはダミーだった.そしてレインは国防省へ通報.レインはスパイ容疑で逮捕された.

 それから十数年後の2086年.施設は電気系統も含め完全に崩壊.抗体を持ったエンノイアとハナ,彼らの抗体から作ったワクチンで生きながらえていたレインを残し,人類は全て崩壊してしまったつもりで生活をしていた3人の元に,崩壊以来初めて外部から人が飛来する.クリスを筆頭とした連邦軍だった.連邦軍は施設を制圧しようとするが,ケルビムを起動させたエンノイアによって,クリスも含め皆殺しにされた.

 その後,エンノイアは離島を決意.南米に逃れ,ペルーに難民として受け入れられる.そこで麻薬カルテルのボスとして台頭することになる.

 

エンノイアの台頭

 ※物語の大きな空白期間.散見する情報を元に構築

 2087年.エンノイアとハナはペルーに難民として受け入れられる.そこで,トニーやニッコーなどの仲間と共に,南米最大の麻薬カルテルを牛耳るまでになる.

 2101年.エンノイアはペルーの支配権をトニーに譲渡し,コロンビアのボコタシティへ移り,自分の父親についての調査を開始する.その中で原父連邦との関わりを知り,「父親の理想を知り,過去を謝罪し父の仕事を受け継ぎたい」と原父連邦に協力を持ちかけ,ニッコーを連邦へ派遣,資金を提供する.原父連邦はエンノイアを懐柔しようとある計画を持ちかける.だが,エンノイアは計画途中で原父連邦を裏切った.

 2107年(?).ヘロイン中毒から立ち直ったジナが医大に合格.入学までの準備期間にボランティアとして教会の施設で働き始めた.しかし爆発事件に巻き込まれて死亡.8ヶ月後にコロンビアは原父連邦に加盟.身の危険を感じたエンノイアは,家族をペルーへ逃がそうとした.

 

コロンビア越境 (1)〜(4)

 2108年.ハナ,エリヤ,マナは,エンノイアの手引きでコロンビアからペルーへの逃走する計画だった.別の空港に替え玉を用意したり,コロンビア警察に根回しして協力を要請したり,用意は万全のはずだった.が,空港で原父連邦の襲撃に遭い,ハナとマナは原父連邦に拘束されてしまう.偶然その難を逃れたエリヤは父エンノイアによって送られた装甲車と軍事用AIロボット「ケルビム」と共に,原父連邦の権力が及ばない安全なペルーまで,自力で越境することになった.

※救援が来るまで安全な場所に隠れていろという指示だったかもしれない.エリヤ一人ではどう考えても途中のゲリラの検問などは突破できなかっただろうから.

 一方,同じ経路でノマドによる重要なミッションが展開されていた.連邦から盗み出したある重要なデータを,運び屋として志願したカイル少年の体内に埋込み,それをカーン大佐率いるノマドの特殊部隊が回収に向かうというミッション.しかし,部隊の乗ったヘリは原父連邦によって撃墜.カイル少年は射殺されてしまった.
 連邦は体内に埋め込まれたデータは発見できず,死体を放置.が,数日後,そこを通りかかったエリヤが死体を発見.野犬によって食い荒らされた死体からディスクの存在に気付く.念のためコピーを取り,ディスクを元通りにして死体を埋葬した.
 さらに数日後,カーンらがエリヤを発見.ケルビムの記録から,彼の素性と死体を発見した事実を得,エリヤの案内でカイルの死体からデータの回収に成功.カーンらは原父連邦の勢力外へ逃亡する戦力を失っていたため,エリヤの装甲車とケルビムを利用したかったこと,エリヤに危害を加えてエンノイアを敵に回すのは得策ではないため,エリヤと協力し,ペルーへの越境を継続することにした.

 道中,ゲリラの拠点を突破した際に巻き込まれたヘレナとカチュアを救出し,原父連邦軍を何とか撃破し,ノマドの協力を得たトニーによって回収された.

※その後,エリヤは7年ぶりのリマのかつて住んでいた街に戻り,学校に通ったりと日常生活を送り,ヘレナは行く当てもないので,トニーのシマの店で住み込みで働くことになった,と思われる.ヘレナはこの街に馴染みがあるとは考えられないので,ここからペドロ編までの間に,ヘレナが馴染み,姉御肌を発揮するようになるのに十分な期間(半年〜1年以上)が経過しているのではないだろうか.

 

ハナ・マナ救出作戦 (5)〜(6)

 原父とエンノイア間の人質交換を伴う交渉が決裂.そこで,エンノイアは,原父が人質とマーヤの本体を移送する際に,マーヤ本体をダッシュしたいノマドと手を組み,空港を襲撃し,人質を救出する計画を立てる.現場の指揮に当たるのはトニー.
 が,スパイがいたらしく,エンノイア側の動きが,原父連邦に漏れているらしい.さらにどこからか話を聞きつけたエリヤが,友人のリッキーとニッコーに修復してもらったケルビムを伴って,個人的に救出作戦を立案し参戦.混乱と戦闘を予見したマーヤが,ソフィアに今回の事態を沈静するように依頼した.

 作戦は開始されたが,やはり情報漏洩のため襲撃を予見していた原父連邦の罠により,作戦は失敗.エリヤがバックアップに向かう.そこでソフィアと合流し,発進した原父連邦の輸送機を墜落させる.が,制動予測に失敗し,輸送機は空港ロビーに激突.多くの民間人を巻き込み現場は混乱.さらに原父連邦がアイオーンを放ちノマドが応戦しと,現場は戦場と化す.最終的にはマーヤがその能力を発揮して事態を沈静するが,ノマドはマーヤを奪還できず,エンノイアはマナは救出できずハナは銃撃によって,半身不随,意識不明の重体を負ってしまった.さらに,エリヤは現場に居合わせた地元警察官によって(器物破損,殺人,あるいはテロ容疑,現行犯で)逮捕された.
 もちろんトニーの根回しによって刑事訴追は免れ,無罪放免で釈放されることになったが,エリヤが持ち込んだケルビムによって仲間が殺害され怒りが収まらない刑事等が,エリヤに「教育的指導」を施す.
 ボロボロになりながら,何とか街まで歩いて戻り,力尽きて倒れていたところを,偶然,ヘレナに助けられた.

 

ペドロとの抗争 (6)〜(8)

 ヘレナはトニーの斡旋で,トニーのシマの売春宿で仕事と宿を手に入れ生活していた.行き倒れたエリヤを拾ったのは,ペドロの店のマヌエラを引き抜いてきた丁度その帰り道だった.
 ヘレナは,マヌエラはペドロの「お気に入り」程度の認識だったから,金で引き抜くことができると思ったのだろう.だがペドロの魂胆は,あえてマヌエラを渡し,その後を追いトニーのシマで一悶着起こすことで,トニーとの抗争に発展させることができると睨んでいたのだ.大丈夫.マヌエラは,薬中だとわかればすぐに追い出され,また自分の下に戻ってくる.今までもずっとそうだった.
 そんな訳で,ペドロは計画通りにヘレナの店に行き盛大に嫌がらせ.からんできたトニー側のチンピラを死傷させ,トニーに宣戦布告した.

 一晩明け,薬中が発覚した上にトラブルを起こしたマヌエラの処分も含め,ヘレナとマヌエラが話をした.マヌエラは逆切れし出て行くと言うが,ヘレナはそれを必死に止める.何とかして,ヤク欲しさのためにペドロの元に戻るという悪循環から救いたかった.セシィのためにも.
 そこでエリヤは,マヌエラをクリニックに入れることを提案.しかしヘレナは「麻薬を売って得た金で麻薬を抜けと言う.汚れた金の世話にはならない」と逆上.それでも,セシィの頼みでもあるし,マヌエラのためにはクリニックが一番だと信じるエリヤは,昨夜のトラブルのために店を閉め外で商売することになったヘレナらが外出した隙に,密かにチャドに依頼しマヌエラをクリニックに送ってしまった.

 この事態に最も焦ったのはペドロだった.明日にでも戻ってくる予定だったマヌエラが何者かによって連れ去られたのだ.そこでその首謀者と思われるヘレナを拉致し,拷問に掛けるが,ヘレナにとっては全くの寝耳に水だ.にも関わらず,余計な憎まれ口を叩きまくったことで,ペドロはさらに逆上.見せしめに,彼女の右耳を切り落とし,左眼を刳り抜いて,それをエリヤに送りつけた.
 病院に駆けつけるエリヤ.「僕のせいだ.」頭を抱え込む.正しいことをしたはずなのにもたらされた最悪の結果.口は悪いが,いつも自分に優しくしてくれ,恋心も芽生え始めた大切な人が,取り返しのつかない重傷を負わされた.やり場の無い怒りがすべてペドロに向けられた.「殺してやる.」

 一方,ペルー内務省は,以前から一人の男をマークしていた.通産省の役人であるエミリオ・ソーサ.実は彼の本名はマルコ・オクタビオ,ペドロの父親違いの弟だった.彼は役人の立場を悪用し,国外から麻薬を持ち込みマルチネスに流しているらしいのだ.内務省はペドロの部下にスパイを潜り込ませるなどしてその裏を探っていた.
 ソーサとマルチネスの繋がりを何とか断ちたい内務省.しかし,彼をマルチネスの息のかかった者と気付かずに役人にし,麻薬の持ち込みを許していたのは国家としての重大なミス.ソーサが逮捕されその事実が明るみにされればマスコミや世論による政界バッシングは必至.

 エリヤはそこに目を付けた.ネットワークをハッキングし,以上のような内務省の機密文書を入手.スパイの情報を手に内務省に強請(ゆすり)をかけ,さらにソーサの暗殺を引き受けることを条件に,ペドロの暗殺を黙認するように取引を持ちかけた.
 ソーサとペドロは,共に亡命を計画しているらしい.ペドロが資金を,ソーサが政府内部情報を提供することで,原父連邦から協力を得るという手筈だ.内務省はソーサの身柄も彼が持つ機密情報も市警に渡ることを望んでいない.そこで,ペドロとソーサが落ち合う現場で,両者を共に暗殺することで,内務省の望みとペドロ暗殺を同時に成就させようというのだ.

 エリヤは,既に引退したペドロ側のボス,オートメーターにコンタクトを取り,ペドロ暗殺のための協力を要請.同時にオートメーターの元で狙撃の訓練を受けることになった.

 決行日が近づくが,未だマヌエラが見つからないことにペドロは痺れを切らし,クリニック見舞いからの帰りのエリヤを襲撃し拉致.48時間の拷問の末にクリニックの場所を聞き出し,マヌエラを奪還した.
 エリヤは,役目を負えたペドロの内通者によって救出された.そして,彼によって逃走経路は3人分しか確保されていないことを知らされた.後日マヌエラからセシィに伝えられたのは,ダミーで4人分確保された場所.つまり,彼らはセシィを捨て駒にしようということなのか.マヌエラはそれを承知だということなのか.

 そして決行日.市警にも情報が流れており,ペドロとソーサの逮捕に向けて大規模な作戦を展開していた.ペドロは逃走資金にするために手持ちの麻薬をオートメーターに売却し現金化した.しかしオートメーターは市警と協力しており,紙幣のナンバーは全て控えてあった.これがペドロを麻薬所持で検挙する証拠となる.後はソーサと一緒になったところで,共に逮捕に踏み切るだけだ.

 ペドロ暗殺のために逃走経路である空港に既に配置済みのエリヤの元に,ダミー経路である駅にセシィが現れたと連絡が入る.マヌエラはセシィに2人で発とうと言っていた.ここにマヌエラが現れれば問題は無い.
 だが,市警と共にセシィを監視していたナオミから届いた知らせは,セシィの死を告げるものだった.そう,結局マヌエラは,かつてのセシィの兄と同様に,セシィを捨てたのだ.怒り,悲しみ.やりきれない想いに沈むエリヤ.こんあはずじゃなかった.正しいことをしたかったのに,結局何もかもうまくいかなかった.……殺すべき,罰を受けるべき人間は,ペドロだけじゃない.エリヤの前に現れたマヌエラは,ライフルの標準のその先で,これからのペドロとの幸せな生活を夢見て,満面の笑顔をたたえていた.
 エリヤは引き金を引いた.

 

マリハン・イサク (9)〜(10)

 中国西部,新疆ウイグル自治区の油田とパイプラインが,テロリストグループによって占拠された.グループの指導者はマリハン・イサク.中国漢族による民族浄化の阻止を掲げるウイグル族だ.彼女はパイプラインと人質を盾に,新疆からの連邦軍と人民軍の24時間以内の撤退を要求しようとしていた.
 連邦にとって,この程度のテロ事件の解決など容易い事だった.場所柄,まだメディアには漏れていないため,突入し人質もろとも武装グループを撃破するだけだ.メディアには後から適当な情報を流せばいい.油田に多少被害が出るのが痛手だが,それも修復すれば済むことだ.
 だが今回は勝手が違った.マリハン・イサクは,衛星回線を使い,世界中のニュースメディアを通じてライブで要求を伝えたのだった.美人の女性テロリストによる反プロパテール演説.原父に大きなダメージを与えることができると踏んだノマドがソフィアを使ってロシアの衛星回線をハッキングしたために実現した放送だった.だが,ロシアが然るべき対応を取ればハッキングは長続きしない.そこで,エンノイアもノマドに手を貸し,ヤクートマフィアにロシアとの協力を取り付けることを提示してロシアにハッキングを黙認させることに成功したのだ.

 先手を打たれた原父連邦の次の手は,逆にマスコミを利用することだった.爆発物を仕込んだスパイロボットをパイプラインに通し自爆させ,これをテロリスト側の爆薬の誤爆だと発表.さらにテロリストグループの一人に,外国人の国際テロリストが加わっていることを掴み報道した.即ち,テロリストグループは崇高な主義を持つウイグルの解放軍などではなく過激な国際テロリスト集団であること,その彼らが要求の期限が近づき焦っていること,つまり期限が過ぎれば「人質もろとも自爆する」危険があると世論に思いこませようとした.
 世論の支持を失いたくないテロリストは,女性職員を解放することでイメージを回復しようとするが,原父連邦にとっては「突入の際に支払う『コスト』が下がっただけ」.

 そして要求の期限も差し迫った時,連邦は,ECCMで通信をジャミングし施設の電源を落として突入を開始した.投入されたのは原父連邦正規軍アイオーン.人質もろともテロリストを皆殺しにしようというのだ.だが,この強攻策もノマドが予想していたことだった.ノマドは施設内に小型の特殊なカメラを忍ばせ,連邦のECCMを突破し施設内の凄惨な光景を受信,さらにそれを,衛星メディアを通して世界同時生中継を行った.
 全世界のお茶の間に流れる残酷なジェノサイド作戦の映像.世論にヒステリックなパニックが巻き起こるのは必至だろう.原父連邦はテロリストの自決という正当化手段を失っただけでなく,その非人道的手段が公にさらされてしまったのだ.世界中からの避難,糾弾は避けられないだろう.
 ノマドの作戦はここまでで既に大成功だった.テロリストもこのまま全滅し被害が大きくなった方が原父連邦に不利に働くだろう.ただ,民族解放運動の英雄として既に神格化されているマリハンだけは,まだまだ反原父連邦キャンペーンのキャラクターとして利用する価値があり,ここで失うにはあまりにその損失は大きい.そこでノマドの傭兵ケンジをメンバーに忍ばせておき,マリハン一人を連邦の包囲を突破して救出させた.

 

4年後 (10)〜

 [スタブ]