ザッポスに学ぶ 世界一お客さんのことを考えるネットショップをつくる方法

2010.03.29  

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ザッポス

たとえばカスタマーサービス宛に、

「旅行鞄を購入し愛用しています。けど、設定したダイヤルロック番号を忘れてしまって、困っています...。初期設定する方法かマスター番号などわかりましたら教えていただけませんでしょうか。」

という問い合わせがあったとする。
確かに初期化用のマスター番号はあるけど、それがわかると同じ鞄なら他人のでもすべて開けられるようになっちゃうから教えるわけにはいかない。だから、

「申し訳ございませんが、マスター番号をお知らせすることはできません。修理として承りますので、修理をご希望の場合は・・・」

と回答をする。この回答は良い回答だろうか

YES/NOクエスチョンだったら満点。
言葉遣いも丁寧で、敬語も間違ってない。
内容も、単に拒絶して終わるんじゃなくて、代わりの提案をしてる。
だからこれで文句ないでしょ、と言うことだってできるかもしれない。

 けど、僕は納得いかない。

 きっとこのお客さんは、この回答を読んだら「がっかり」するんじゃないかと思う。

 それも、単に期待した回答が得られなかったっていう「なーんだ、がっかり」じゃなくて、好きな友達に約束を反故にされたときのような、哀しい「えぇ~そんなぁ、がっかり」であることに注意しきゃいけない

 良くある「顧客対応マニュアル」的な本を読んだりすると、「顧客の本当の期待に応えなければいけない」とか書いてあって、見直してみると先の回答は、その期待に応えるには不十分なことがわかる。顧客は鍵の番号が知りたいんじゃなくて、今すぐ鞄を使えるようにする方法を知りたいのかもしれない。修理に出す方法だけ教えられても役に立たないし、そもそも鍵を教えてもらえない理由がないから、もう一度事情を説明して鍵の番号を教えてもらおうとするかもしれない。結局断られるんだからそれは二度手間だし、よけいイライラするし、だいたいそんな二度手間が起こるのは、その最初の回答に顧客が満足どころか納得すらしてないからだ。
と解説することができる。

 けど、この「期待に応える」という次元は、実は「なーんだ、がっかり」の予防にしかなっていない

 それよりももっと深い「えぇ~そんなぁ、がっかり」のもとにあるのは、そのブランドに対する「愛」だ。

 このお客さん、このブランドがすごく好きなんだろうな、と思う。お客さんの文章を読むと、その「気持ち」が良く伝わってくる。

 旅行はたまにしか行かないけど、そのたまの旅行に使う鞄にもこのブランドのものを使いたいと思って買っておいたもの。それがいざ使おうと思ったときに、鍵の番号を忘れちゃった。...どうしよう、困った。せっかく買ったのに、このままじゃ使えない! オロオロしながら、大好きなブランドのカスタマーサービスに電話する。何とかしてほしい! という想いで。

 そんな人に応対するのに、先の回答じゃダメに決まってるでしょ!

 確かに、このケースでは、いろいろ問答したりいろんな提案をしたりしても、結局お客さんの期待には応えられないかもしれない。でも、本当の最終的な目標は、期待に応えられなかったとしても「電話して良かった。やっぱり良いブランドだな。このブランドが好きで良かった。(また次もここで買おう。|また何か困ったら電話しよう。)」っていう「気持ち」になってもらうこと。
 好きでいてくれている人に、これからも同じように、もしかしたら今以上に、好きでいてもらうこと。そのためにはどんな風に応対したらいいだろう、って考える。

 これは「愛に応える」っていうとんでもない次元の話。

 「期待に応える」っていうのが論理的な解決方法だとすれば、「愛に応える」っていうのは極限まで情緒的な方法論。いや、もう方法論ですらない。
 「愛に応える」っていう気持ちでいれば、「期待に応える」ことなんて簡単に当たり前にできるようになるはずだ。強いて言えば、姿勢の問題。

 だから、最高のカスタマーサポートになるには、お客さんの愛に気づかないといけない。そのためには、自社のブランドを愛し、自社のブランドを愛するお客さんと共感するための、感性を持ち、育てられるかにかかってる。

 お客さんと相思相愛になれるかどうかにかかってる。


 この本に書かれているのは、そんな「お客さんと相思相愛になる環境」を本気で作って大成したザッポスの「カルチャー」。

 顧客満足度の測定と向上だとか、パンクなお兄さんの徘徊する自由な職場であるとか、一見するとシリコンバレー的な奇妙奇天烈な経営手法がおもしろおかしく語られてるだけにしか見えないけど、結局は、「お客さんにザッポスを好きになってもらうために最高のサービスを提供すること」と「ザッポスのカルチャーに共感し、お互いに自由に楽しんでウキウキした職場を作り、ザッポスのことをとことん好きになれる従業員を集めて、彼らに最高の環境を与えること」を本気でまじめに取り組んでるに過ぎない。

 その具体的なやりかたはもちろんコミュニティの規模やカルチャーによって全然違う答えになるだろうけど、この「楽しんでる幸せいっぱいのコミュニティ」が「まわりの人に幸せを振りまき巻き込んでいく」っていう図式は何にでも通じる黄金の方程式だと思う。

 一昔前には、インターネットは、情報を低コストで広範囲に伝達するための便利なメディアでしかなかった。けど、これからのインターネットは、今までは一対一だとか、限られた人にしか届けられなかった、心と心が通じ合い共感し合うことのできる、感情豊かなコミュニケーションを、何万人にも届けられるメディアになっていくと思う。

 お客さんは「何をしてくれたか」は覚えていない
 でも「どんな気持ちにさせてくれたか」は決して忘れない

 人と人のコミュニケーションなんだから、そこで交換されるあらゆるデータには、人の生きた感情が込められている。
 ザッポスのCEOトニーシェイのこの言葉を忘れずに、これからのネット時代を進んでいきたいと思う。

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