Project NICHE  

2007.2.12 23:55 .

Project NICHE

Project NICHE 全体図 (SHADEレンダリング)

 量産に依らず、収納家具を手作りでオーダーメイドするアドバンテージは何だろう。Project Niche(ニッチ)とは、そんな思いに端を発して、特定の個人が所有する、収納家具を置く場所の周りで実際に使っているモノに完全にフィットさせた、その人、その場所専用の収納家具を提案する、フルオーダー収納家具制作プロジェクトです。

 置く場所を決める。すると、置ける家具のサイズが決まる。その周りでふだん使っているものも大体決まる。そしたらあとは、そのモノたちがきれいに無駄なく使いやすくその場所に「停まる」ような収納のカタチをあぶり出す。そんなオーダーメイドデザインのアプローチを、まずは自宅キッチンの空きスペースに適用してみることにしました。

「入れるもの」が教えてくれた 収納のカタチ

 人はいろんなものを持っている。ひとつひとつ、カタチも大きさも違う様々なモノたち。そんなモノたちを収納するんだから、収納もひとつひとつカタチや大きさが違ってもいいんじゃないか。全然大きさの違う引き出しや用途によって開き戸や引き戸が混在したりする、最初はそんなフランケンシュタインみたいなキャビネットを構想していました。そんなパズルのような配置をうまく解けば、モンドリアンのような「収納のコンポジション」が見つかるかもしれないという、楽観的な展望を抱きながら。

キッチン周りで使っているモノたち

 とにかく実際にどんな大きさのモノがどのくらいあるか把握するために、片っ端から計測する。すると不思議なことに、これだけ様々な大きさのモノたちが、意外と数種類の大きさに大別できることに気がつきました。「これに合わせて引出を作ると、同じ高さでこれもこれも収納できるな。」「奥行きはこれに合わせると...ん? ほとんど全部これで行けるんじゃないか?」
 そうして浮かんできた寸法を、今度は設置予定場所の外枠の中に順番に並べていきます。するとそこに正確な正方形が現れました。高さも、ちょうどその上でお茶くみなどの作業をするのにちょうど良い高さ。
 これには自分でもちょっと感動しました。まったく意図しなかったのに、こんなきれいなデザインにまとめられるなんて。それも、僕はただものの寸法を測っていただけなのに。モノ達は雄弁に語り、僕は言われるままに線を引いた。そうか、彼らはこんな箱に入りたがっていたんだ。

Project Niche 収容物詳細
上段から、箸置き、カトラリー、ランチョンマット / 調味料、トレイ
ジャム瓶、カップ&ソーサー、珈琲豆、コースター
土鍋、タッパー、コーヒーメーカーセット
お皿、レシピブック、ペットボトル、サラダ油

理想的な収納場所 - 「入れたもの」を 人はどうやって取り出すのか

 このキャビネットを見ていただいた方から、入れるものをビシッと決めるわりには、全部のっぺりと区別のつかない表情にして、結局どこに何を入れたかわかんなくなっちゃうんじゃないの?なんて声が聞かれました。でも逆に、僕は問いたい。じゃあ、ふだん収納したものを探すとき、その「手掛かり」にしている情報は何ですか、と。

Template In Claska You Can't Lay Down Your Memory
Template In Claska(2004)
収納するもののカタチに切り抜かれた壁面収納
使うものが極めて限られている
ホテルの部屋ならではのデザイン
トラフ建築設計事務所による作品
You Can't Lay Down Your Memory (1991)
ひとつひとつ表情の違う引出が
無意識的に記憶の中で結びつき、
中に入れたものを連想させる。
Teyo Remi (Droog Design) による作品

 使い慣れた部屋では、それはほとんど無意識で行われることだから、無意識的な身体的実行動の優先度が高い。要するに「(あまり身体を大きく動かさず)手を伸ばしたところに入れる」という「自然」な行動がその場所を決めていることが多いんじゃないでしょうか。逆に、「(収納家具の)外観」という視覚情報に対しては意外と依存率が高くない。だから初めて入って長くても数日で出て行くホテルでもない限り、外観に明確なヒントを持たせる必要はありません。
 でも、だからこそ、無意識に働きかける情報を与えることが重要になってきます。「You Can't Lay Down Your Memory」が「薬箪笥」と最も違うのはまさにこの点で、全部同じカタチだから座標という数値情報で位置を記録するしかない薬箪笥に対して、前者はひとつひとつカタチも表情も違う引き出しによって、入れたときの色、質感、手触りといった五感情報と結びついて記憶され、今度はその表情が入れたものを連想させます。

 一見全部同じ造りに見えるProject Nicheの収納も、例えば引き出し、開き戸、ドロップ戸で取っ手の彫り込みを変えて、手をかけた瞬間にそれがどう開くのかわかるような工夫もしてあります。
 「全部同じ」よりも、「少しずつ違う」ほうが、ひとつひとつ違う内容物の現実に対応していて、感覚的に中身がわかりやすい。何が入っているか頭で覚えなくても、それに触れたとたんに身体が思い出す。それが中身に合わせて全部違う大きさの収納を造る最大のメリットです。

取っ手彫り込み位置と収納機能の対応
取っ手彫り込み位置と収納機能の対応

プロジェクトは継続する

使ってみる

 というわけで、入れるものに完璧に合わせて収納を作ってみるという実験を、現在自宅で検証している段階です。じゃあ、現時点でその結果はどうだったのかというと、やっぱり半分は成功、半分は失敗というのが正直なところです。大きさだけでなく、何をどのくらい、何のために、どのくらいの頻度で、入れたり取り出したりしやすい位置や入れ方等々、すごく綿密に考えたところはこれ以上ないくらい使いやすいけど、そんな考えの足りないところは、足りない分だけやっぱり使いにくいんです。「何でも入るところには何も入れられない」というのは確かだけど、それが中途半端な大きさだとより一層厄介になるみたい。
 それと、致命的なのは柔軟性の欠如の問題。これはやっぱりこの位置の方がいいやとか、やっぱりこれも入れたいと思っても、ほとんどそれに対応できません。入れるものは「必要十分な道具」であって、増えないことが前提になっているけど、予定外に増えることは往々にしてあるし、事前にそれを予測することはカオス的に不可能。今盛んに言われてる、いろんな生活シーンに対応できるフレキシブルな住宅設計と同じようなアプローチが、少なくとも部分的にそんなゆとりが残されている必要はありそうです。

 収納の理想は、「手を伸ばしたところに必要なものが全てある」状態だと思います。意識せずに使える。考えなくてもしまえる。出すのにも片付けるのにも、何の障壁もない。そんな理想の部屋を作る収納家具をデザインする方法論を、今後も継続して考えていきたいと思います。

Trackback Pings

この記事のトラックバックURL :

http://www.k-en.net/blog2/mt-tb-kw.pl/426

この記事へのトラックバック一覧 :

Comments

    NAME
    :
    E-MAIL
    :
    URL
    :
    MESSAGE
    :